論文の書き方

1999.7.29

この頁は、英語/日本語共通です。

ここでは、論文の各章をどう書くかについて説明します。文章の書き方については、下記のコーナーを参考にしてください

英語

ライティングの要点(sentence)
ライティングの要点(document)

日本語

ライティング基本7ヶ条

 

論文とは

論文とは、自己の研究が過去の研究に対して、いかに新規性があり、効果があるかを示すものです。

『研究とは自分の考えを述べるものであるはずである。しかも、印刷して他人に読ませる論文である以上、述べられている筆者の考えが、それ以前にあった他人の研究とは対立し、それらを批判し、それにまさっている点を明らかにしていなければならない。つまり、まさにその筆者でなければ考えられなかったことを読者に伝えるための論文なのである。論文とは、ある問題について、今までの学会での研究成果ではなぜいけないのか、自分はそれに代わって何を明らかにするのかを明瞭に書いたものでなければならない。』 宇佐美 寛「論理的思考」

したがって、新規性や有効性のないものは、論文ではありません。

 

心構え

人の論文の書き方をまねし てはいけません。たとえ、先輩の論文であろうと、上司の論文であろうと、有名な研究者の論文であろうと、理由なくまねをしてはいけません。なぜなら、ほとんどの論文は、書き方という観点からみたとき、多くの問題を含んでいるからです。たとえ有名な研究者であろうと、論文の書き方に卓越しているわけではないのです。むやみに他人の論文のまねをすると、欠点までまねをすることになりかねません。

 

論文の構成

技術論文は、以下のような構成をとることが多いです。

1. 論題
2. アブストラクト
3. 序文
4. 方法や材料
5. 結果
6. (考察)
7. 結論
8. 謝辞や参考文献

4, 5, 6 を本論と呼びます

 

論題の付け方

論題は、論文の内容を端的に表すものでなければなりません。内容を伝えられない論題では、読み手にその論文のページを開いてさえもらえないのです。つまり、土俵にも上げてもらえないことになります。論文の内容を端的に表すためには、topic、purpose、methodを入れ込みます。

 

topic: 何(何の何)について研究したのか


ATMの負荷分散通信
ソフトウェアの設計生産性
顧客情報のセキュリティ
LSIの高周波電源電流解析

purpose: topicをどうすることを目的としたのか(動詞型のある名詞を使うことが多い) topicから目的が容易に想像できる場合は省略可能


向上、削減、強化、効率化

method: どうやって目的を実現したのか(ここに新規性がある)


通信衛星を利用した
小型無線局による
リソース競合に着目した

 

論題の好例

    「パターン配線による電送線路のEMIノイズの低減」

    「気体充填型封止による有機EL素子の非発光点成長の抑制」

    「PWM共振を用いた高効率低ノイズコンバータ」

    「Efficient computation of quasi-periodic circuit operating conditions via a mixed frequency/time approach」

     

注意

以下のような表現は、事実上、何の意味も持たないので不要です。

「〜についての考察」
「〜について」
「〜に関して」
「〜の提案」
「〜の検討」

アブストラクト

アブストラクトでは、読み手の手助けとなるよう、論文で伝えたいすべての内容を要約して述べます。アブストラクトには、以下の二つの目的があります。

  1. すべての読み手に対して、その論文を読むかどうか判断するのに必要な情報を与える

  2. 論文を読み進もうとする読み手に、前もって概要を伝えることで理解の手助けを与える

アブストラクトには、論文で伝えたい内容がすべて記載されていなければなりません。具体的には以下のようなことを述べます。(下記項目を、1項目につき1文で述べると効果的です)

現状
現状の問題点(研究の必要性)
技術的目的
方法や材料
結果
結論

特に重要なことは、「なぜその研究が必要なのか」(現状の問題点)、「従来と何が違うのか」(方法や材料)、「従来をどれだけ改善したのか」(結果)という点です。この部分が明確になるように意識して書く必要があります。そのためには、以下のように文を接続していくと効果的です。

(現状)。しかし、(現状の問題点)。そこで、(技術的目的)すべく、(方法や材料)を適用した。その結果、(結果)。これにより、(結論)

アブストラクトは、そのまま本文と切り離してデータベース化することもあるので、すべてのキーワードが含まれるように注意します。

 

序文

序文は、読み手がすんなりと本論へ入っていけるよう、アブストラクトと本論とを橋渡しするパートです。序文では、アブストラクトで述べたことをもう少し詳しく述べます。ただし、結論は述べないのが普通です。アブストラクトでは1文で述べたことを、1パラグラフ使って説明するのを目安にすると良いでしょう。なお、現状とその問題点は、できる限り序文で述べきってしまいます。

 

現状を述べるときには、その記述の中立性を保つため、参考文献を挙げるのが効果的です。参考文献なしで現状を述べると、事実と意見の区別が付きにくくなります。最悪、自己の研究に有利なように、現状をねじ曲げているという疑問を抱かれることがあります。

 

方法や材料

結果や結論を導くための方法や材料について述べます。この部分が論文の新規性を表しますので、最も重要な部分といえます。方法や材料を正しく述べないと、読み手が論文の成果を再現することができません。最悪、成果に対して嫌疑をかけられたり、成果を正しく評価してもらえなくなります。方法が複雑な場合は、読み手に正しく伝わるよう、書き方に対して細心の注意を要します。

 

結果

実験やシミュレーションや調査した結果について、データを添えて述べます。結果を述べる目的は、自己の提案する方法が、従来に比べてどれだけ優れているかを、具体的な数値で示すことです。したがって、いかに改善したか、いかに優れているかを、具体的に述べなければなりません。、図や表を示しただけでは、いかに改善したか、いかに優れているかを述べたことにはなりません。

悪例: 試行結果を図3に示す。
好例: 試行Aでは、全条件において歩留まりが、従来に比べて13%以上改善した。(図3参照)

 

考察

考察では、結果から結論を導く課程を説明します。読み手を説得する必要があるので、論理的になるよう、書き方に対して細心の注意を要します。なお、結果から結論の課程が、説明不要なほど自明な場合、考察は省略します。

 

結論

手法や結論を振り返りながら、最終的な結論(=目的)を述べます。1パラグラフ程度の短いものが普通です。本文にないことを述べたり、事実と意見を混同したり、論理が飛躍したりしないよう注意します。

 

謝辞や参考文献

ある程度決まった書き方がありますが、さほど重要ではないので、ここでの説明は省略します。