日本語ライティング研修の問題点

 〜企業日本語ライティングの問題点とそのあり方〜

2016.1.13

 

ライティングの研修で、語句/文レベルの改善を中心に学習しても、受講者の文章の質はいっこうに向上しません。なぜなら、文章の質は、その全体構成/パラグラフ構成でほぼ決まるからです。短期間で文章の質を上げたければ、全体構成/パラグラフ構成を中心としたライティングを学ばなければなりません。

 

現場での問題

日本人の99%は、まともな実務文章が書けないため、以下のような問題が生じています。

 

読み手

  • どこに何が書いてあるか分からないので、文章全部を読まなければならない

  • 何度も読まないと理解できない

  • 時間をかけて読んだのに、重要なことが記憶に残っていない

書き手

  • 言いたいことがうまく伝わらない

  • 重要な情報を読み手が記憶していない

  • 論理的でないと指摘される

  • 書くのに時間がかかる

実務文章が書けないのは、正しい教育を受けていないからです。学んだことがないのですから、書けないのは当然です。学校教育でも、文の書き方は教わっても、文章の書き方は教わりません。大学でレポートや論文を書くのに、レポートや論文の書き方を学習することはありません。見よう見まねで書いていたのでは、正しく書けるようにはなりません。

 

従来研修の問題点

文章が書けないので、書けるようにと受講する研修にも以下のような多くの問題があります。このため、研修に参加しても、勉強した気になっただけで、文章の質はいっこうに向上しません。

 

語句/文レベルの説明を重視する

語句/文レベルでの改善では、文章全体の改善効果が小さく、効果的ではありません。 文章が分かりにくいのは、語句や文の問題ではありません。主語と述語が合わなくても、読点の打ち方がおかしくても、修飾語句の掛が少し分かりにくくても、それで何を言っているかわかなくなることはありません。おかしな日本語だなと思うだけです。

 

講師の我流を押し付けている

講師が、おかしな書き方を指導していることも多くあります。そういう講師は、文章の書き方の本を数冊読んだだけで、その内容を鵜呑みにして指導しているのです。たとえば、「起承転結で書け」、「受動態を避けて能動態で書け」、「社説に学べ」などは、間違った考え方です。(「ライティングの常識・非常識」を参照)

 

演習が実践的ではない

すでにある文章を書きなおす演習だけでは実践的ではありません。ライティングの研修でよくあるのが、この書き直しの演習です。つまり、分かりにくい文章を見せ、分かりやすく書きなおす演習です。ライティングのルールを理解するには必要な演習ですが、実践的ではありません。なぜなら、ビジネスの現場で、すでにある文章を書きなおすなんてことは、まずしないからです。

 

多くの内容を詰め込み過ぎる

ライティングの学習ポイントを片っ端から短期間で学習するのは効果的ではありません。ライティングの学習ポイントは効果の大小を問わなければ、100前後もあります。全てをカバーしようとすれば、詰め込み研修となり、記憶に残りません。100点を望むあまり、50点も取れなくなってしまいます。

 

例文が実践的、現実的ではない

誰も書きそうもない極端な悪例は、話としてはおもしろいですが、現実味がなく役にたちません。「そんな文章、誰も書かないよ」と思われておしまいです。普段書いていそうな文章が、実は効果的ではない、より効果的な書き方があると学習するからこそ意味があるのです。

 

企業日本語ライティング研修のあり方

文章の質は、その全体構成/パラグラフ構成でほぼ決まることを考えれば、この部分を徹底的に強化するのがもっとも効果的な研修です。それも、世界標準であるテクニカル・ライティングに基づく理論を勉強すべきです。演習や例文にも、実践を意識した配慮が必要です。

 

全体構成/パラグラフ構成を重視する

全体構成/パラグラフ構成を改善すれば、短時間で文章全体を大きく改善できます。 効果的な文章なら、重要なポイントが何で、自分に必要な情報がどこに書いてあるかがすぐ分かり、それも一読で理解できるはずです。そのためには、語句や文の改善ではなく、全体構成/パラグラフ構成の改善が必要です。

 

テクニカル・ライティングに基づく世界標準を学ぶ

テクニカル・ライティングという分野で、十分に認められている世界標準を学ぶべきです。テクニカル・ライティングでは、認知心理学などから効果的な書き方が追及されています。欧米では、このテクニカル・ライティングに基づく書き方を、少なくとも大学1年の時に、「アカデミック・ライティング」とか、「フレッシュマン・ライティング」として学習します。

 

実践的な演習で学ぶ

実践的な演習とは、生データから文章を書く演習です。すでにある文章を書きなおすのではなく、整理できていない情報から文章を書き起こすのです。実際のビジネスでは、ノートのメモ書きや整理できていない資料などから、レポートなどを書くはずです。同じ状況を再現してこそ、実践的と言えます。

 

学習内容を絞る

短い時間でライティング能力を向上させるには、ポイントを絞る必要があります。忙しい社会人が研修に割けるのは、長くて1日か2日です。その期間で、できるようになるには、100点ではなく80点を目指すしかありません。知っていることと、できることは違うのです。できるようになるには、時間が必要です。

 

現実的な例文で学習する

誰もが書きそうな文章を使ってこそ、現実味があり、ライティング能力改善の必要性を認識できます。そのためには、知識人の書いた文章(論理性の求められる意見文など)を、悪い例として使うのも1つの方法です。それも、文章であって、文ではだめです。全体構成/パラグラフ構成を学習するには、A4用紙で半ページから1ページくらいの例文が必要です。