はじめに

 

 本書の目的は、英語力の強化なしに、情報を効果的に英語で伝達する力(=コミュニケーション技術)を、短時間で大幅に向上させることです。

 

 「そんなことできるはずはない。英語はコツコツ努力しなければ向上しないんだ。」と思う方も多いでしょう。確かに、英語力はコツコツ努力しなければ向上しません。TOEICのスコアが、一夜にして100点向上することはありえません。

 

 しかし、英語でのコミュニケーション技術は、一夜にして向上させられるのです。そのためには、英語ではなく英語でのコミュニケーションを勉強しなければなりません。つまり、文章構成、文やパラグラフ間のつながり、適切な口調など、どうすれば情報を効果的に伝達できるかを勉強しなければならないのです。

 

 日本人の多くは、英語は懸命に勉強するのに、コミュニケーション技術はまったく勉強しません。その結果、文法上の誤りのために意味の通じない文を書く人はほとんどいませんが、構成上の問題で伝えるべきことを伝えられない文章を書く人はたくさんいます。また、礼儀に欠ける文章を書く人もたくさんいます。

 

 本書は、この(英語での)コミュニケーション技術を中心に説明しています。

 

 本書は、理系のビジネスパーソンや理工系の学生、特に「英語は得意でないが、今すぐ、英語の文章を書かねばならない」という人のために書かれています。具体的には次のような人です。

  • TOEICが400-500点(平均な理系の大学卒業レベル)

  • 今まさに、英語を書かねばならないので、こつこつ勉強して英語力を向上するのを待っていられない

 研究職や技術職といった理系のビジネスパーソンは、事務職や営業職以上に「伝えたい情報を正しく効果的に伝える」ためのコミュニケーション技術がより一層求められます。なぜなら、理系のビジネスパーソンの仕事は、事務職や営業職に比べてルーチンワークの比重が少なく、論文執筆や技術提案、商品の技術的説明などを、毎回違ったテーマを扱うのが一般的だからです。

 

 また、マニュアルや技術的な解説などは、誰が読んでも正確に、容易に理解なければなりません。分かりにくい表現や構成は、事故やトラブルにつながりかねないのです。

 

 本書は理系のビジネスパーソンや理工系の学生をターゲットにおいていますが、書かれている内容は、事務職や営業職、文科系大学生にも役立つはずです。そもそも、英語のライティングには文系も理系もありません。ビジネスや学業の場で必要となるライティング能力とは、理系も文系も、正しく効果的に情報を伝えるコミュニケーション技術なのです。

 

 コミュニケーション技術は、経験ではなく理論に基づいていますので、だれでも容易に理解でき習得できます。けっして、特別難しいものでも、ネイティブでしか知り得ない単語や言い回しでもありません。

 

本書は、(英語での)コミュニケーション技術を説明するものなので、文法や言いまわしの説明はほとんどありません。また、よい例としてあげた英文も、平均的な日本人の英語力で書けるよう、可能な限り簡単な表現を使っています。些細な文法上のミスは故意にそのまま残している場合もあります。

 

 本書は、3部から構成されています。

 

 第1部では、現状の英語力向上にばかり目を向けた英語学習方法の問題点を指摘しています。そのうえで、英語でコミュニケーションするには、どんなことを学ばなければならないかを説明しています。

 

 第2部では、具体的にどのような書き方をすれば、効果的にコミュニケーションできるかを説明しています。

 

 第3部では、さまざまな具体的な状況を想定して、効果的にコミュニケーションできる文章例を示し、なぜ効果的かの解説をしています。

 

 本書によって、読者が、伝えたい情報を正しく効果的に伝えられるようになることを願ってやみません。さらに、文法や言い回しをやみくもに覚えるような、英語力向上ばかりに目がいっている現状が、コミュニケーション技術の向上へと少しでも変化すれば、これ以上の幸せはありません。