企業英語研修の問題点とそのあり方

2000.5.16

 

ネイティブというだけでライティングを勉強したことのない者が、文法ばかりの翻訳技術を中心に、ビジネスレターや論文の書き方を指導していたのでは、何年たっても受講者はまともな英文文書を書くことはできません。なぜなら、文法ばかりの翻訳技術では、効果的な英文文書を書くことはできないからです。効果的な英文文書を書くためには、論理構成やformalityといった、コミュニケーション技術を習得しなければなりません。

 

企業の英語研修の問題点

企業の英語研修は、以下の3つの問題点を抱えています。

  • ネイティブというだけでライティングを勉強したことのない者が指導している。

  • 翻訳中心の指導をしている。

  • 論理構成や文章構成を指導せずに、論文やビジネスレターの書き方を指導する。

ただネイティブというだけで、ライティングの勉強もしたことのない者には、効果的な文章の書き方を指導することはできません。なぜなら、効果的に意思伝達できる文章を書くには、論理構成や文章構成などのコミュニケーションの技術を身につけなければならないからです。この技術は、勉強しなければ身に付かないのです。したがって、コミュニケーションの技術を学んだことがないものが、ライティングを指導することはできないのです。(日常会話なら、ネイティブというだけの指導者でも効果はあります。なぜなら、彼らは日常会話の専門家だからです)

 

与えられた日本語をこなれた英文に訳すことを勉強するのは、翻訳家を育てるためには重要ですが、実務の世界では重要ではありません。なぜなら、何をどう書くかが文書の質を決めるのであり、和文英訳が文章の質を決めるのではないからです。翻訳技術よりも、何をどう書くかの技術の方が重要なのです。何をどう書くかの技術さえ身につけていれば、それを英語に直すのは、それほど難しい作業ではありません。(意味さえ変わらなければ、文法上のミスは、些細な問題にすぎないからです)

 

論文やビジネスレターを効果的に書くには、論理構成や文章構成などのコミュニケーション技術を勉強しなければなりません。コミュニケーション技術を身につけて、初めて、わかりやすい、説得力のある、適切な丁寧さをもった、印象の良い文書が書けるのです。文法をマスターしたからといって、いきなりビジネスレターや論文を書こうとすることは、泳げるようになったというだけで、いきなりシンクロナイズドスイミングに挑戦しようとするようなものです。とても、成功はおぼつきません。

 

効果的な英語研修の構成

企業の英語研修は、以下の3段階で構成すべきです。

  1. 文法を中心とした、翻訳技術を習得する初級コース

  2. 論理構成や文章構成やformalityを中心とした、コミュニケーション技術を修得する中級コース

  3. 各人の実務に則し、ビジネスレターや論文等の実務文書作成技術を習得する上級コース

いずれのコースも、ネイティブ/ノンネイティブを問わず、ライティングをしっかり勉強した者が指導に当たらなければなりません。

 

指導のポイント

英語研修における指導では、次の2点が重要です。

  1. 良い/悪いの理由を説明する

  2. シナリオベースの演習をこなす

なぜ受講者の英文がダメで、なぜ模範解答がよいのかを理論的に説明しなければなりません。『こういう英文が書けるようになりましょう。』などと、好例だけを示して、なぜその英文がよいのかを説明しない講師は、ひとにものを教える能力がありません。日常的に湯水のように英語を浴びることができるなら、ある程度までよい英文を身につけることは可能です。しかし、圧倒的多くの受講生にとって、そのような機会も時間もないのです。限られた時間で英語力を向上させるには、『なぜか』を理解して、それを実践するのが最も効果的です。したがって、この『なぜか』が理解できなければ、良い文章を書くことは遠い道のりとなってしまいます。

 

実践力を付けるには、和文英訳ではなく、シナリオベースの演習が必要です。シナリオベースの演習とは、『これこれこういう状況において、これこれこういう主旨のレターを書きなさい。』というような演習です。つまり、生データから英文を起こすのです。まさに、実務の状況そのものです。何をどのような文言で書くかは、コミュニケーション上最も重要な部分です。これは和文英訳では鍛えられません。

 

効果の低い演習

    問題:以下の日本文を英訳しなさい

    『5月10日にサンフランシスコに出張する予定です。そこで、突然ではありますが、5月11日の午後2時に御社にて、PEGASUSの信頼性について打ち合わせさせていただけないでしょうか。わたしは、5月9日(アメリカ時間)に日本をたちますので、その日の夕刻までにご都合をお知らせください。また、必要があれば、5月10日の夜に、サンフランシスコのXYZホテル(408-867-9921)までご連絡ください。』

効果の高い演習

     問題:あなたは、5月10日にアメリカのサンフランシスコに出張する予定である。そこで、5月11日の午後2時に、共同開発をしているABC社を訪れ、Smith氏(すでに面識あり)と開発中の新製品PEGASUSの信頼性について会議を持ちたいと思っている。 Smith氏に会議を申し入れるFAXのSubjectと本文を作成せよ。ただし、今日は5月8日の朝とする。