質問の技術

2004.9.15

 

わからないことは聞く

双方が同じ認識を持って、はじめて交渉は始まります。この確認を怠っては、議論がかみ合わなかったり、大きな後戻りを余儀なくされたりします。特に注意したいのは言葉の定義です。曖昧な言葉、具体性のない説明は、納得いくまで質問すべきです。

 ○ 「ここでいう『サポート』とは、具体的にどのような作業を含みますか?」

 

意見を述べる代わりに質問する

質問の形をしていると回答しなければならないという気持ちが働くので、論証型反論に誘導しやすく、議論が深まります。主張してしまうと、相手も主張型反論をしがちで、議論は平行線になります。また、主張するより、同じ内容を質問の形にした方が、あたりが柔らかになるので説得しやすくなります。

 × 「データもなしにそんなこと言われても、納得できないね。」
 ○ 「そのことを裏付けるマーケティングデータをお持ちですか?」 → 「では、そのデータを......までに示していただけますか?」

 

言い換えして聞き返す

相手の言いたいことがわからなくても、「何が言いたいの?」は禁句です。相手の質問に対して言葉を換えて「〜ということですか?」のように質問します。内容の確認のためなら、相手の言ったことを中立的に言い換えします。議論を有利に運びたいときは、自己に有利なように微妙に言い換えてしまうのも手となります。

 

オープン/クローズド・クエスチョンを使い分ける

オープン・クエスチョン

「〜についてどう思いますか?」のように広く意見を聞く質問です。自由な発想で会話が広がるというメリットがあります。一方、会話がどの方向に進むか予測できない、話が複雑化して論点からそれやすくなるというデメリットもあります。

例: 「当社の中国に進出についてどう思いますか?」

クローズド・クエスチョン

「〜については、Aですか、Bですか?」のように選択肢を選んでもらう質問です。話を特定できるので、会話をコントロールしやすくなるというメリットがあります。一方、時として威圧的な印象を与え、会話が進まなくなるというデメリットもあります。

例: 「ライバル会社は皆、中国進出に積極的ですよね?」

 

説明を始める前に根拠を聞く

相手の挑発にのって、自己の主張を始めてはなりません。相手の結論だけを聞いて、相手の根拠も聞かずに主張を始めれば、堂々巡りになるだけです。まず、相手の結論の根拠を聞き出しましょう。根拠を聞くまでは、自己の主張を述べるべきではありません。 たとえば、次のような意見に対して反論してはいけません。論文が稚拙であることを立証しなければならなくなります。まずその根拠を聞き出すことで、相手に稚拙でないことを立証させましょう。

「あなたは、ずいぶん厳しい評価をされるけれど、この論文はなかなかいいじゃないですか。さっき『稚拙』という評価をされたけれど、この論文は『稚拙』ではないでしょう。」

× 「なぜ稚拙かは先ほど話したように...」

○ 「稚拙でないとおっしゃるなら、その理由は何でしょう?先ほどの私の意見と同程度に具体的にお聞かせください。」 『「議論の力」をどう鍛えるか』(宇佐美寛 明示図書)より

 

論点を固定して、話をそらさせない

会話の中の論点をいつも意識しておきましょう。人は不利になると無意識に論点をそらしにかかるので、論点がそれたら、論点がそれたことを指摘して、その論点について白黒つけましょう。決着がつくまで、次の論点に移ってはいけません。

○ 「その前に......について確認させてください。......ということでよいのですね?」

 

逃げられないように、論点には念を押しておく

ある根拠に主張していたとき、その根拠が崩れそうになると、別の根拠を後から出してくることがあります。これは、公式なネゴシエーションではアンフェアのそしりを受けますが、日常ではよくあることです。こうなるとせっかく有利に進めていた会話が振り出しに戻り、収拾がつきにくくなります。そこで、最初に論点について念を押してしまいましょう。こうすると、後から新しい論点を出せなくなります。

○ 「自然公園法などの規制が問題なのですね?これさえ回避できれば問題ないのですね?」

 

逃げたいときは、とにかく質問する

不利な状況に追い込まれ、あるいは追い込まれそうになったときは、質問することで逃げましょう。たとえば言葉の定義を問うのもひとつです。多くの場合、いったん論点がずれると、そのまま会話は別の方向へ向かうので、不利な状況から脱せられます。

♀ 「結婚するってことは、心の安定を得ることなの。心の安定って大事でしょう?」 ♂ 「心の安定ってどういうこと?」
♀ 「心の安定っていうのはねえ......」