子供たちの世界に何が起きているのか。中学一年生(13)による女性教諭刺殺事件の衝撃が収まらないうちに、今度は中学三年生(15)が同種のナイフで巡回中の警察官を刺し、強盗殺人未遂、銃刀法違反などの現行犯で逮捕された。
幸い、警察官は防刃服を着けていたので負傷ですんだが、少年は「殺害してでも短銃を奪いたくなった」と供述しているという。凶器への強い執着、短絡した行動に衝撃は深まるばかりだ。
二つの事件には同一に論じられない面もあるが、少なからぬ少年たちがいつもナイフを身に着けている。それで存在感を示したり、あるいは持っているだけで安心するという状況は極めて異常だ。
銃刀法では業務などの正当な理由による場合を除いて、刃体六センチを超える刃物の携帯は禁じられている。警察庁は、少年たちが持ち歩くこと自体に違法性があることを関係者に徹底するよう指示した。
これまで、未成年者に野放しで売られているところにも問題がある。事件を機に、自治体によっては業者側に販売自粛を求めたり、条例で有害がん具類への指定を検討したりする動きが見えるのは当然だ。
学校現場に似つかわしくない無用の刃物が持ち込まれているのに、そのチェックが余りに甘過ぎる。一時批判された校則に象徴されるような管理主義に陥ってはならないが、事は命にかかわる問題だ。
状況に応じ、学校側の判断で持ち物を確かめることも必要だろう。なぜそうするのか、よく説明することが教育的な行為ではないか。工夫と力量が問われている。
今起きている事件を繰り返してはならないが、これらは対症的な療法に過ぎない。子供たちにここまで歯止めを失わせ、凶暴化を防げなかった現実を、社会全体の問題として受け止めなければならない。
校内暴力は年間一万件を超え、八〇年代の「荒れる学校」に続く第二のピークの様相を見せている。凶悪犯で逮捕・補導される少年も急増している。しかも、非行歴が全くなく初犯で強盗、あるいは殺人未遂というケースも目につく。
命を尊ぶ気持ちが希薄になっているのではないか。教師刺殺事件もそうだが、警察官を襲った事件でも胸を刺している。
自分を抑制する力が弱くなっているようだ。兄弟げんかをしたり地域の仲間にもまれたりする機会が少なくなったせいか、手加減を知らない。そうした子供たちを残酷なシーンであふれる劇画やアニメ、テレビゲームなどが取り巻いている。
罪の意識も弱い。刑法犯の七割以上を占める万引きや自転車盗などは、ごく普通の家庭の子供たちが起こしている。
軽い気持ちで起こした非行の段階でどう導くかが大事だ。学校や地域の役割もあるが、なんといっても家庭の責任が大きい。子供と向き合って、非行の芽にも善悪の区別を説く親でありたい。
非行が大人社会の鏡とするなら、我々の心の検証も必要だ。子供たちへの取り組みに説得力を持たせるためにも。 |