新聞の社説はこう書け!

1998.8.8

新聞の社説は、エッセーのような読みものと考えれば問題ありませんが、社の考えを読者に伝えるための実務文章と考えると失格です。なぜなら、以下のような問題点があるからでです。

  • 文章の始めに総論が来ていないので、文章全部を読まなければ何を言いたいかわからない。

  • パラグラフの要約文はもちろん、パラグラフ構成自体がいい加減なので、全ての文を読まなければ、何が言いたいかわからない。あるいは重要な情報を読み落とす可能性がある。

  • 明確な論理構成を持っておらず、話題があっち飛びこっち飛びしていて理解しにくい。

  • 主張を明確に述べないので、読み手によって理解が変わる。

 

具体的に、ある社説と書き換え例を比べてみましょう。

1998年2月3日付け 読売新聞社説

子供たちの世界に何が起きているのか。中学一年生(13)による女性教諭刺殺事件の衝撃が収まらないうちに、今度は中学三年生(15)が同種のナイフで巡回中の警察官を刺し、強盗殺人未遂、銃刀法違反などの現行犯で逮捕された。

 

幸い、警察官は防刃服を着けていたので負傷ですんだが、少年は「殺害してでも短銃を奪いたくなった」と供述しているという。凶器への強い執着、短絡した行動に衝撃は深まるばかりだ。

 

二つの事件には同一に論じられない面もあるが、少なからぬ少年たちがいつもナイフを身に着けている。それで存在感を示したり、あるいは持っているだけで安心するという状況は極めて異常だ。

 

銃刀法では業務などの正当な理由による場合を除いて、刃体六センチを超える刃物の携帯は禁じられている。警察庁は、少年たちが持ち歩くこと自体に違法性があることを関係者に徹底するよう指示した。

 

これまで、未成年者に野放しで売られているところにも問題がある。事件を機に、自治体によっては業者側に販売自粛を求めたり、条例で有害がん具類への指定を検討したりする動きが見えるのは当然だ。

 

学校現場に似つかわしくない無用の刃物が持ち込まれているのに、そのチェックが余りに甘過ぎる。一時批判された校則に象徴されるような管理主義に陥ってはならないが、事は命にかかわる問題だ。

 

状況に応じ、学校側の判断で持ち物を確かめることも必要だろう。なぜそうするのか、よく説明することが教育的な行為ではないか。工夫と力量が問われている。

 

今起きている事件を繰り返してはならないが、これらは対症的な療法に過ぎない。子供たちにここまで歯止めを失わせ、凶暴化を防げなかった現実を、社会全体の問題として受け止めなければならない。

 

校内暴力は年間一万件を超え、八〇年代の「荒れる学校」に続く第二のピークの様相を見せている。凶悪犯で逮捕・補導される少年も急増している。しかも、非行歴が全くなく初犯で強盗、あるいは殺人未遂というケースも目につく。

 

命を尊ぶ気持ちが希薄になっているのではないか。教師刺殺事件もそうだが、警察官を襲った事件でも胸を刺している。

 

自分を抑制する力が弱くなっているようだ。兄弟げんかをしたり地域の仲間にもまれたりする機会が少なくなったせいか、手加減を知らない。そうした子供たちを残酷なシーンであふれる劇画やアニメ、テレビゲームなどが取り巻いている。

 

罪の意識も弱い。刑法犯の七割以上を占める万引きや自転車盗などは、ごく普通の家庭の子供たちが起こしている。

軽い気持ちで起こした非行の段階でどう導くかが大事だ。学校や地域の役割もあるが、なんといっても家庭の責任が大きい。子供と向き合って、非行の芽にも善悪の区別を説く親でありたい。

 

非行が大人社会の鏡とするなら、我々の心の検証も必要だ。子供たちへの取り組みに説得力を持たせるためにも。

 

この社説は、以下のように書き換えるとわかりやすくなります。

書き換え例

ナイフを使った、少年による凶悪な傷害事件が多発している。原因は、ナイフを容易に入手できる社会と、少年の未熟でゆがんだ心にある。事態は深刻であり、早急に対策を講じなければならない。まず、ナイフ販売業者は少年への販売を自粛すべきである。また、学校は積極的に生徒の持ち物を検査すべきだ。さらに、家庭は、犯罪を軽んずることのないよう少年を導かなくてはならない。

 

事態は深刻である。中学一年生(13)が女性教諭を刺殺した事件は記憶に新しい。今度は中学三年生(15)が同種のナイフで巡回中の警察官を刺し、強盗殺人未遂、銃刀法違反などの現行犯で逮捕された。少年は「殺害してでも短銃を奪いたくなった」と供述しているという。

 

校内暴力は八〇年代の「荒れる学校」に続く第二のピークの様相を見せている。発生件数も、年間一万件を超えた。凶悪犯で逮捕・補導される少年も急増している。しかも、非行歴が全くなく初犯で強盗、あるいは殺人未遂というケースも目につく。

 

第1の原因は、未成年が容易にナイフを入手できる現状にある。少なからぬ少年たちがいつもナイフを身に着けている。それで存在感を示したり、あるいは持っているだけで安心するという。身につけていれば、何かのはずみで使ってしまうことも当然増える。

 

第2の原因は、少年の未熟でゆがんだ心にある。命を尊ぶ気持ちが希薄になっている。また、自分を抑制する力が弱くなっている。兄弟げんかをしたり地域の仲間にもまれたりする機会が少なくなったせいか、手加減を知らない。残酷なシーンであふれる劇画やアニメ、テレビゲームなどの影響を受けているとも指摘されている。さらに、罪の意識も弱い。ごく普通の家庭の子供たちが万引きや自転車盗などを起こしている。

 

社会全体が早急に対策に取り組むべきだ。とくに、ナイフ販売業者と学校、家庭の責任は重い。

 

第1に、ナイフ販売業者は少年への販売を自粛すべきだ。刃体六センチを超える刃物の携帯は、原則として銃刀法で禁じられている。その禁じられている刃物が、未成年者に野放しで売られているのは問題だ。

 

第2に、学校は積極的に生徒の持ち物を検査すべきだ。持ち物検査はプライバシーを侵すという反対意見もあるが、事は命にかかわる問題なのだから、プライバシーより優先されるべきである。しかし、管理主義に陥ってはならないし、なぜ持ち物を検査するのか、よく説明することも必要だ。

 

第3に、家庭が中心に、学校や地域も協力して、犯罪を軽んずることのないよう少年を導くべきだ。命を尊び、自分を抑制することを学ばせなければはならない。また、たとえ軽犯罪であろうと、罪の意識を強く持たせることも大事だ。

 

子供たちがここまで歯止めを失い、凶暴化してしまった現実を、社会全体が受け止めなければならない。社会全体で非行の芽を摘み、善悪の区別を説かなければならない。

 

書き換え例は、オリジナルに比べて以下の点(他にも多数ありますが、ここでは省略)で優れています。

  • 総論が先頭に来ているので、最初のパラグラフさえ読めば主張がわかる。また、読み進むに当たり、予備知識があるので理解しやすい。

  • 各パラグラフが明確な目的を持って、論理的に並べられている。

  • 各パラグラフの先頭には、そのパラグラフの要約となる文が来ているので、第1文を読めば、そのパラグラフで何がいいたいか理解できる。

尚、何の予備知識もなく、書き換え例を読んでから、オリジナルを読んでもらうと、90%以上の人が書き換え例の方が理解しやすいと答えます。(筆者のライティング講座での実験例より)